「六千人の命のビザ【新版】」(杉原幸子/大正出版)
これは、本人は「当たり前のことをしただけ」と認識してるのに、世界的大ヒーローにまつり上げられてしまった杉原千畝さんの奥さんの著書である。
文章が昔の人と思えぬ、すっきりした読みやすい文章であり、とても知的な方であることが感じられる。
家族も含めて六千余人ぶんの通過ビザを書くというかんじんの部分もすごいが、もっとすごいのは、幸子さん一人が敗走ドイツ軍と侵攻ソ連軍との銃撃戦に8日間も巻き込まれて奇跡的に生き残る部分と、ルーマニアでソ連の収容所に入れられてからシベリア鉄道→日本引揚げ船までの艱苦の数年(“数か月”ではない!)の部分だ。
許された時間、全力を尽くして2000余通のビザを書いたが、その後のリトアニアでは(リトアニアだけでも)その幸運に与らなかった数万人のユダヤ人が殺されている。典型的な焼け石に水だが、杉原さん自身はベストを尽くしている。
杉原さんは本省の訓令を無視してビザを書くのだが、そこに一つの図式がある。
戦争は、人間が投じるものすごい量の労苦であり、それに見合ったスケールの悲惨と無意味である。
訓令を電信する本省のお役人は、現場、人間的現実を知らないし、想像力もない。
一方、目の前の人間的現実を見ている杉原さんには、形式的で、重要な意味などなんにもない訓令は受け入れられない。
このギャップは大きい。
靖国参拝の意義を滔々と述べる政治家にも、人間的現実を完全に捨象した空疎さの塊を感じる。
「女性が活躍できる社会を」の言葉が、同じく、空疎の塊であるように。
戦争へのボタンをクリックするのは、そんなことができちゃうのは、つねにこのタイプの空疎人間だ。
| 固定リンク
コメント
追い詰められた現実をサヴァイブする事だけが正しい(?)生き方。
正しく現実を生きてはいない人間も沢山いる。
投稿: 南 | 2014年11月10日 (月) 07時45分
上記の生き方のどこが正しい?
そんなゆとりのない生き方、アッシはゴメンだね。
空疎人間に引っかかったけど、あの選挙活動をやり遂げる奴ら。朝の通勤時、歩道に立ってマイクで演説なんて、あれこそ空疎な言葉をしゃべる空疎人間なり。
投稿: ohiya | 2014年11月11日 (火) 00時35分
政治家の街頭演説でよく聴く言葉で「わたくし・・汗をかいて参りました」というのがありますが、ただただ選挙の時だけ走り回って人に頭を下げて汗をかいてるだけのイメージがあります。やだなぁ。
投稿: musataro | 2014年11月11日 (火) 21時01分
選挙運動?している人たちというのは、あなたがやらねば誰がやるのです、と洗脳されてて、運動するのがものすごく生きがいになるのだそうだ。
投稿: bad | 2014年11月18日 (火) 00時18分