なぜThe Sageがペール・ギュントだったか?
Emerson, Lake and Palmer, Greg Lake, The Sageから、ノルウェーの作曲家グリーグにたどり着き、イプセンの戯曲ペールギュントにたどり着いたが、このペールギュントがくせ者。
表面的には大河ドラマ的ドタバタ喜劇のようだ(初演の上演に4時間を要したという)。筋を(あまりにも)超簡単に言うと、ペール・ギュントというすでに相思相愛の女性(ソルヴェーグ)のいる若者が、親に強いられた結婚をしたくない女友達を救うため、二人で山へ逃げ、彼は花嫁略奪でお尋ね者になってしまう→ヨーロッパ各地を転々するうちに奴隷貿易などで大儲け、しかし最後には没落して老いる→故郷ノルウェーの田舎に帰り長年彼を待っていたソルヴェーグの膝枕で彼女が歌う子守歌を聴きながら死ぬ。
エピソードとその細部の数がやたら多く、転変激しく、それぞれにイプセンの思想的含意があるようで、超難解。イプセン自身、またはイプセン公認の世界最高のイプセン研究家の書いた解説でもなければ、細部的にはなかなか分からない。
だが、中心的なテーマへの言及は、何度も出てくる。この戯曲の中心的テーマとは、「おのれ==自己」である。そしてヒロインのソルヴェーグは、自己というものの真の所在、ありか、を象徴していると思われる。
毛利三彌訳(論創社)より、主人公の最期のせりふの一部を引用しよう(わずかに岩谷が改変):
P「じゃ、言ってくれ、おれの全身、おれの真実、おのれ自身としてのおれは、どこにいたか?」
S「わたしの信仰の中、希望の中、愛の中。」
(中略)
P「ああ、おれを隠してくれ、その中に隠してくれ!」
そして、それまでの、ペール・ギュントの長い、変化の激しい遍歴と、The Sageの冒頭:
I carry the dust of a journey
that cannot be shaken away
It lives deep within me
For I breathe it every day.
は、ぴったり重なるのであった!!
コミュニケーションとは、人が、それぞれpureな自己として、愛の中に戻り隠れること以外の、一体何から生まれ育つと言うのか!!! それしかありえないではないか!!!!
というわけでこの話題は、本ブログの中心テーマとも、ぴったり重なって、めでたしめでたし、でした。
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コメント
お書きになられた筋だけから印象を書くのも安易かもしれませんが、「ひとりの愛する女性」がいながら、別の女性を救うために(特定の2人に閉じてしまうような)「愛」を捨てる・・・そして、各地を転々、決して恋愛という世界に閉じるような生き方はしないのだな・・・・・と思いきや、最後はまたまた「特定の恋人」とともにあることが一番だということを意味している物語であるかような印象も受けました。
しかし、あるきっかけで「各地を転々」し、dust of a journeyをcarryした果てにたどりついたのが、「愛の中」なんですね。
「どこにいたか」という過去についての問いに対して、ずっと「私の愛の中にいたのよ」という答え。
かつての岩谷さんの翻訳によるLED ZEPPELINのTEN YEARS GONEの言葉のようなニュアンスを感じました(この曲だと、たとえばWe're eagles of one nest,the nest is in our soulsというなにげない歌詞に普遍的な愛をみるような)。
>そしてヒロインのソルヴェーグは、自己というものの真の所在、ありか、を象徴していると思われる。
(TEN YEARS GONEをふつうに聴けば、特定の人のことを歌ったラブ・ソングとして聴けるように)このイブセンの劇も、ソルヴェーグの存在の意味が、「結局特定の恋人がいることが最高」という風に読む人に受け取られないように祈るばかりです。
投稿: nice | 2012年3月11日 (日) 22時24分
自分の人生は自分の所有物ではない
自分で買ったものでも
自分で創ったものでもない
じゃ、誰の??
追伸
やっと『展覧会の絵』聴きました
投稿: 南 | 2012年3月12日 (月) 09時15分
yesterday's ashes ではなくyesterday's answerと歌っているように、聞こえますが、、、。
投稿: bad | 2012年3月14日 (水) 01時23分
@bad
>yesterday's ashes ではなくyesterday's answer
このページではashesですが、ぼくの記憶ではanswer、ほかの歌詞サイトをいくつか今調べたら、やはりanswerになってます。
うむ、ashesもかっこいいけど。
投稿: iwtani | 2012年3月14日 (水) 08時52分
@nice
イプセンの、というか名と作品が世界的に有名になっている過去の文学者の作品を、単純な恋愛劇のように読んでも、しょうがないでしょうね。劇中で何度も「おのれ」というテーマが出てくることでもあるし。でも、群盲象を撫でる、豚に真珠、猫に小判、馬の耳に念仏現象は、どんな作品とオーディエンスの関係にもあることですから、猫に対して、お前はイプセンを読むな!とは言えませんね。
投稿: iwatani | 2012年3月14日 (水) 08時59分
「The Sage」の2番(?)の出だし部分は、歌詞サイトによって「You and I are yesterday's answers」であったり「You and I are yesterday's ashes」であったりしてまちまちです。オリジナル版ではレイクさんもささやくように歌っているので、よぉーく聴いてもどっちだか判断しづらいです。しかし、この歌詞のキーワードとして「dust(埃、塵)」と「earth(土)」が出てくること、およびキリスト教(中でもイングランド国教会派だけ?)の葬儀での埋葬の際に唱えられる言葉として「土は土に、灰は灰に、塵は塵に(earth to earth, ashes to ashes, dust to dust)」という決まり文句があることを考え合わせると、ここは「yesterday's ashes」とした方が座りが良いため、私も長年「ashes」だと思っていました。すなわち「わたしとあなたは昨日(できたばかり)の灰にすぎない」だと。ところが、badさんのコメントを読んで再度気になったので、今度は「展覧会の絵」の2001年リマスター判CD(レーベルはSanctuary Records)を引っ張り出してきて、そのCDにボーナストラックとして収録されている「1992年11月EL&P再結成時(って再結成してたんだ...)のライブで演奏された"Pictures at..."のダイジェスト版」の「The Sage」の当該部分を耳の穴かっぽじって聴いたところ、同バージョンでは割にはっきりと「yesterday's answers」と歌っているように聴こえることを発見しました。しかし、じゃあ「わたしとあなたは昨日の答えだ」って一体どうゆう意味なのよ?、と悩んだ挙句、「"yesterday's answers lyrics"」でググったところ、意外や意外、Megadethというスラッシュメタル(って何?)バンドの「Losing My Senses」という曲の中に次のような歌詞が含まれているのを見つけました。
「昨日の答えじゃ今日の問いには役立ちゃしねぇぜ」てなとこでしょうか。これをヒントにして、さらに「土は土に、灰は灰に、塵は塵に」という決まり文句の意味も踏まえた上で、「The Sage」の歌詞全体を、できるだけ内容に深く踏み込んで(つか踏み込みすぎ?)意訳してみました。苦労して訳してみた結果、この感動的な詩もまた、長い旅路を終えた男の臨終間際の言葉であることを再認識しました。
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我が身にこびりついた
旅の埃を
振り落とすこともかなわず
埃は我が身中深く住まい
我日々この埃を吸う
我と汝は
昨日の答え
今日の問いには役立たぬ
愚人曰く
人間とは
遠い昔に
土塊(つちくれ)が肉体となり
それが時の大河に蝕まれた末
今日我らが持てる形へと
なりしものに過ぎぬと
すなわち
我らの生とは畢竟
土から土へ
灰から灰へ
埃から埃へと帰る
肉と血であるに過ぎぬと
我今まさに土へと帰らんとす
どうかここへ来て
分かち合ってくれ
肉でもなく
血でもない
土にも灰にも埃にも塗れることのなかった
この私の息吹を
この私の本質(=魂)を
そして
合体させよう
肉でもなく
血でもない
土にも灰にも埃にも決して塗れることのない
我らの流れを
我らの時を
この輝ける
終わりのない瞬間に
我らの土と灰と埃に塗れた理性とやらは
悦ばしき詩(うた)の中へと
消え失せるだろう
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長文失礼しました。
投稿: kawabata | 2012年3月14日 (水) 12時47分
@kawabata
ashesについて、そして、yesterday's answerについて、理解視野を広げていただき、ありがとうございます。おかげで、とても充実した記事スレッドになったと思います。実は私も、ashesのほうがかっこいいなぁ、と感じていたのですw。
投稿: iwatani | 2012年3月18日 (日) 13時45分
やっと
Emerson Lake & Parmer
”PICTURES AT AN EXHIBITION“ をCD にて聞き直し
歌詞と訳詞を辞書も片手に読み直し
ここも読み直しました
iwatani さん、kawabata さんの話を通じて深く味わえました
また、安易な書き込みで、主旨を歪めそうになった点
改めておわびします。すいませんでした
きっちり作品と向かい合わなくては得るもの少なし
と、痛感させられました。ありがとうございました
simomitu
投稿: 下光博之 | 2012年3月30日 (金) 17時05分