On the road
シャンソンの脱構築者ZAZが、古典シャンソンの名曲"Dans ma rue"をカバーしている。
その歌詞(一人称語り)は、少女がホームレスとなり、路上生活者となり、自分にできそうな唯一の職業==収入源として売春婦を選ぶが、客が一人も付かずに飢えと寒さで行き倒れとなる(死ぬ)、という完全に絶望的な内容である。
英訳するとOn the roadではなくOn my roadになると思うが、路上とは、家(旧共同体)ではない場所であり、それだけでなく(マルクス的な?)交通と、今日的な意味でのコミュニケーションの、チャネル(流路)である。
そこを居住の場とするに至ったこの歌の主人公は、しかし、生きられないのである。そのチャネルはまだ、人を生かしてくれない。
なぜ、ふつうの冠詞ではなくma(私の)なのか?、それは、死も含めて、路上はまさに、彼女の人生の場だからである。目の前にみじめな死しかなくても、「私の」と言える場は、家をはじめ何らかの旧共同体ではなく、この路上しかない。それが、今および将来の、コミュニケーション人種、ネットワーキング人種の覚悟だ。まだ、命の流れはとても貧しいが、私が生き、死ぬ場は、ここしかない。
非常にリアルで深刻であるという点で、それはケラワックの「路上」などをはるかに凌いでいるし、また、今、軽薄に持ち上げられようとしているインターネット上の普遍仮想貨幣の、(従来貨幣と同じ)冷酷なディスコミュニケーション性をも、あらかじめ完全に否定しているのである。しかし、本質的究極的には、ネットワークというメディアは、人を生かすチャネルとなりうる。そこでどんな貨幣が便利か、を模索するのではなく、ネットワークの上では、すなわち路上では、貨幣的トランザクションは(無意味によそよそしく)"不経済である"、という自覚と認識が--Linuxなど以外の一般分野に--広まる必要がある。
また従来の一方交通的メディアも、ネットワークから学んで、そろそろ真のメディアへと改革されるべきだ。あんたら、イノベーションのない年月が、もうあまりにも、長すぎたんじゃないの?
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コメント
生まれたまんまで生きられない、生きる保障の無い社会は文明社会ではない。
児童虐待死の責任は全人類にある。
楽しようとし過ぎなんだと思う。
投稿: 南 | 2011年5月23日 (月) 09時00分
こんにちは、iwatani様。
zazの音楽性素晴らしいです。
すっとぼけてるかもですが、iwatani様の今回の記事は名文です。
投稿: のろ | 2011年5月25日 (水) 23時37分
僕もその ZAZ なんとかして聴いてみようと思いました。
久しぶりの音楽ネタ
なのも嬉しい。
ALICE SARA OTT も
ここでおしえてもらい
ました。
そして本文ですけど、
社会が homey になる
ととっても良いですか?
以前
駅の話題のところで、
人はホーミーに進化
してきた、という主旨
の文があった気がして。
猫ちゃん、元気に育て
simomitu
投稿: 下光博之 | 2011年5月26日 (木) 07時55分
家人が録画したZAZのドキュメンタリー番組(NHK)をたまたま観た後にこの文章を拝見しました。無名の頃路上ライブを生き生きとやってきて、むしろ有名になってからのステージのほうが不自然な彼女の姿が印象的でした。
投稿: 岩崎真紀 | 2011年5月27日 (金) 17時52分
@岩崎
そ、そ、そうです!
YouTubeのビデオも、Zazは「路上」の音が断然パワフルです。オンステージのは、なんか不自然で、見るのがつらいですね。参考:ステージの終焉(1)、(2)。
投稿: iwatani | 2011年5月27日 (金) 19時20分
やっとのことで
ZAZ の Dans ma rue を
聴くことが出来ました!
田舎なので、てこずり
ましたよ。cdショップの
お姉さん、当然
ご存知でない。まずは
ザーズと読む、の所
から始まります。
(私もですが・・・)
日本盤は
「モンマルトルからの
ラブレター」という
タイトルがついています
ここはオリジナル通り
ZAZ で良かったのでは?
なんてことはどうでも
いいか
感想は
シャンソンとか
マヌーシュ・スウィング
とかは置いておいて、
ロック・スピリットを
感じました。
Dans ma rue では、
日本のバンド
amazarashi を想起
しました。
救いの無い内容が
どうしてか、音楽に
なると、希望を感じる
のが、マジックです
他の楽曲も良くって、
嬉しい出合いに
感謝します。
路上演奏は未知ですが
ボーナストラックの
ライブ・バージョンから
察するに
生で培った実力と
そこがホームになってる
アーティストなのだろう
と
思いました。
報告まで。
simomitu
投稿: 下光博之 | 2011年6月16日 (木) 20時14分