今の自動車メーカー企業は、半分は自動車という金属製機械のベンダ、半分はコンピュータのソフトウェアのベンダである。ソフトのベンダであるという部分はしかし、トップも役員も管理職も現場も、まったく自覚していない。
で、自動車のような古典的で標準的な機械…どこ製の車でもすぐにふつうに運転できる…と、コンピュータのソフトウェアは、『売り方のセンス』が全然違うものである。そこを自覚しないかぎり、今回のプリウスのような問題は、車載システムの複雑化繊細化の進展とともに、今後続々と起きる。
ソフトウェアシステムの売り方で、何よりも、ずば抜けて重要なのはドキュメンテーションと、その充実によるユーザ教育である。たとえば、あの、Windows、Excel、Wordの書籍の氾濫ぶりを見よ!*。 ドキュメンテーションの中でもずば抜けて重要なのが、コメントの充実したソースコードである。ユーザドキュメントを書くサードパーティのドキュメンタリストや、おなじく町のサードパーティのメンテナなどは、ソースコードを見て、「ああ、こいつはこんな処理ロジックなのか。おお、ここにこんなif文があるのか」なんてことを、知ることができなければならない。ソースの企業秘密なんてことを、優先させてはいけない。
〔*: Microsoftは伝統的にドキュメンテーションを怠けているけしからん企業だ。だから、Word本、Excel本などが氾濫するのだが。〕
「ブレーキまわりは、これこれこういう理由で、こんなロジックになっている。だから、これこれこういう使い方をしてくれ」という…まさにソフトウェアの使用に関する!…ドキュメンテーションとそれに基づくユーザ教育が最初から徹底していれば、今回のような大きな企業ダメージはまったく起きていない。
最後にもう一度言う。シンプルで標準的な機械と、コンピュータのプログラムとでは、売り方のセンスが天と地、地と天ほどにも違う。早急に自覚して、対応を取るべきである。
#そもそも、問題の発端となっているABS(anti-lock brake system)は、ASB(anti-skid braking)とでも改名したほうが、“ユーザ分かり”がよいと思われる。雪道や凍結道路に慣れているドライバーの、高等ブレーキング技術を、コンピュータソフト化しちゃったのである。それでいて、ドキュメンテーション〜ユーザ教育がまったくないのは、完全な無茶である。リコール後は、ASBは「人間の体の技術」へと里帰りし、ソフト開発に費やされた努力は無と化す。…いいことじゃないね。
最近のコメント